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仙台高等裁判所 昭和25年(う)174号 判決 1950年6月15日

被告人

木本正雄こと

李宇洪

主文

原判決を破棄する。

本件を福島地方裁判所相馬支部に差し戻す。

理由

(イ)  職権を以て調査するに、原判決は、「被告人は政府の免許を受けないで昭和二十三年九月十一日相馬郡高平村上高平字一ノ坪農業只野源藏方裏庭に於て四斗桶一個に粳精米七升米麹四升及び水若干を原料として仕込み之を醗酵させて独酒二斗を製造したものである。」という事実を認定し、これが証拠として、被告人の公判廷における供述、被告人に対する検察事務官の供述調書の記載及び押收にかかる証第一号乃至第四号の桶三個独酒の存在を挙げている。しかるに記録を検討するに、右証第一号乃至第四号の物件については、これを差押えた旨の記載ある大藏事務官の差押目録を公判において取調べているに止まり、原審がこれを押收したものでなく、なお公判においてその証拠調をしたものでないことが明らかである。しかりとすれば原判決には、虚無の証拠を罪証に供した違法があり破棄を免れないものといわねばならない。

(ロ)  次にまた原判決は法令の適用として「被告人の所為は酒税法第六十条第十四条に該当するから所定刑中罰金刑を選択し」と説明している。しかるに酒税法第六十条は昭和二十四年四月三十日法律第四十三号(同年五月六日施行)第一条によつて改正せられて刑の変更があつたものであるところ、原判示事実は右改正法施行前の犯行であるにかかわらず、原判決は右改正法施行後たる昭和二十四年十二月十四日の宣告にかかるものであるから、原判決が法令の適用として単に酒税法と記載したのでは右改正前の同法が改正後の同法が明かでない。しかして右改正法附則第二十一項には「この法律による他の法律の改正前になした行為に関する罰則の適用についてはなお従前の例による」と規定するので、原判決は右改正前の酒税法第六十条を適用したものかの如く解せられるのであるが、原判決は「所定刑中罰金刑を選択し」と記載しているにかかわらず、右改正前の酒税法第六十条第一項は十万円以下の罰金刑を科する旨を規定しているのみで、罰金以外の刑を選択刑として規定していない。もつとも同法条第二項には情状により懲役刑を科し得る旨をも規定しており原判決は第六十条とのみ摘示しその第一、二項を特に摘示していないのであるから、右第二項の規定にも従つたものなりやと考えられないわけではない。しかし、原判決は被告人を罰金一万五千円に処しているのであるから右第二項を特に適用する必要があるとは認められない。従つて原判決は前記改正前の酒税法第六十条を適用したものであると断じ難いふしもある。なお右改正後の酒税法第六十条第一項には罰金刑の外選択刑として懲役刑をも規定しているので原判決が前記の如く「罰金刑を選択し」と説明している趣旨に合致する如くであるが、仮に原判決が右改正後の同条項を適用したものとすれば、前記改正法律附則第二十一項の規定により行為時法によるべきにかかわらず裁判時法によつて処断した違法があるといわねばならない。

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